2015年11月24日火曜日

グラッシュビスタやザガーロはなぜ高いのか?

 今回は保険適応外治療として使用されている自費診療で処方される薬について考えてみました。皮膚科領域で現在、自費診療で発売している薬剤としては、「プロペシア(ジェネリックのフィナステリドも含む)」、「グラッシュビスタ」があり、発売延期となりましたが「ザガーロ」もその仲間です。
 
 これらのなかでも「グラッシュビスタ」はまつ毛貧毛症、「ザガーロ」は男性型脱毛症(AGA)の薬として使用されます。点眼液と内服薬の違いがありますが、いずれも「ルミガン点眼液」、「アボルブ」という他の疾患に対する薬剤があります。「ルミガン点眼液」は緑内障・高眼圧症に対して保険適応がある点眼液です。まつ毛にこの点眼液が付着することでまつ毛が伸びたり、太くなる副作用が知られており、まつ毛を伸ばす目的で以前より美容クリニックなどで処方されていました。一方、「アボルブ」は前立腺肥大症の治療薬ですが、AGAの原因である5α-還元酵素Ⅰ型・Ⅱ型とも阻害するため、既発売である「プロペシア」(フィナステリド;Ⅱ型還元酵素のみ阻害)よりも治療効果が期待できると、泌尿器科・内科、AGAクリニックなどで処方されていました。

 これらの薬に共通しているのは、本来の目的以外の治療効果に対して使用している点です。一般的に保険適応外と呼ばれるものは、海外では保険適用であっても本邦では未承認、あるいは治療効果については実証されていても認可されていない薬剤を使用することを指します。「ルミガン点眼液」によるまつ毛育毛や「アボルブ」によるAGA治療も大きな括りで言えば保険適応外となります。

 このような薬が保険適応拡大ではなく、自費診療としてこれらの薬を(名前を変えてまで)発売することに至った経緯には幾つかの理由があると思います。①日本は高齢化社会となり医療費が逼迫している、②まつげ貧毛症やAGAの治療に医療保険を使うことで医療費がかさむことが予想される(これは保険を使用して治療を必要とする疾患か否かという意味合いもあると思います)、③保険適応外にも関わらず、保険病名として「緑内障」や「前立腺肥大症」と記載して処方する(これは違法です)ことが少なからずあるため、④保険適応外で使用した場合、重篤な副作用になった場合、医薬品副作用被害救済制度を受けられない(逆に言うと高額であるが「グラッシュビスタ」や「ザガーロ」は救済措置を受けることができる)、などが考えられます。

 ①②は医療費40兆円/年を超えることや、診療報酬改定のニュースが話題となっているため理解しやすいと思います。率直に言って、まつ毛貧毛症やAGAは命に関わるものではなく、かならずしも治療しなくてはいけない疾患ではない…ということを意味しているのでしょう。どうしても治療をしたければ自費でという流れです。

 ③は自費だと患者さんの費用負担が大きいので優しさで処方してあげる…と言うと聞こえは良いですが、保険診療でこれらの薬を処方し続けることは違法(厳密に言うと健康保険法違反)です。摘発されるリスクを犯しながら処方を続けることはできません。

 ④は副作用がない限り問題ないと思われがちですが、インターネットで並行輸入の医薬品を購入したり、院内処方で「ルミガン点眼液」や「アボルブ」をまつ毛貧毛症やAGA治療目的で購入した場合、それらの薬で問題が生じた時に保証されません。このことをどれだけのひとが理解しているのか、そのリスクを承知して購入しているか心配です。皮膚科医はスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤過敏症症候群(DIES)などの重症薬疹(重篤な副作用)で苦しんできたひとを何人も診療しており、今まで報告がなくてもどのような薬剤でも重症薬疹を引き起こすリスクがあることを知っています。だからこそ、副作用で薬疹になったときに救済措置ができる「グラッシュビスタ」や「ザガーロ」を処方することで、このようなリスクを回避ができるようになったことは非常に大事だと思います。

 ただ…金額設定はどのようにしておこなわれているのか、どうしてこの値段になのか?というところはわかりません(「ザガーロ」は「プロペシア」の1.6倍の効果があると宣伝しているので、仕入れ値も1.5倍ぐらいになっている?)。並行輸入や保険適応外処方(院内処方を含む)と張り合う値段とまではいかなくても、もう少し購入しやすい価格というのは検討されていなかったのでしょうか…薬剤には使用期限があるため、在庫を抱えるのは良くないですよね。


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