2015年11月17日火曜日

プロトピックで催奇形性?

あっという間に11月になり、2015年もあと少しとなってきました。クリニックはゆっくりにながら成長を続けている…はずです。これもひとえに受診していただける患者さまや支えてくれる家族・スタッフの方のおかげと感じています。

今回も皮膚科の話題をひとつ。プロトピック®軟膏についてです。一般名はタクロリムスといい、アトピー性皮膚炎に対して保険適応がある外用剤です。タクロリムス水和物は茨城県筑波山付近で採取された放線菌(Streptomyces tukubaensis)の代謝産物である免疫抑制剤で、経口薬(先発品はプログラフ®)は臓器移植・骨髄移植の拒絶反応や関節リウマチの治療で使用されてきました。その外用剤がプロトピック®軟膏となります。

プロトピック®軟膏は1999年(小児用は2003年)の発売からいろいろな論文により翻弄されてきた軟膏でもあります。①長期間外用するとリンパ腫(皮膚癌)になる、②催奇形性や胎児奇形の心配がある…などです。こんな話を聞かされれると外用するのが怖くなってしまうのですが、①②ともにちゃんとした解答があり、医師がきちんと使用方法を説明し使用方法を正しく守って外用すれば安心して使える外用剤なのですが、いまだにHPやブログの記事やYahoo知恵袋などの回答で「使用するのは危険」と書かれており、ちょっとかわいそうに思います。

①は「タクロリムス軟膏のマウス2年間塗布試験」が発端です。この実験では「タクロリムス軟膏を1日1回、2年間にわたり塗布した結果、タクロリムス血中濃度が上昇し、リンパ腫の発現が有意に上昇した」ものでした。この結果だけでは確かに皮膚癌リスクが高いかも…と思うのですが、マウスの皮膚はヒトよりも100〜200倍薄いため薬剤の吸収率が高くなること、マウスの寿命が約2年であるため、一生かけて塗布していること、マウスのリンパ腫発生頻度が高いことなどのバイアスがあり、現在ではヒトではそのようなリンパ腫を起こす血中濃度にはならず、癌の発生率も自然発生率と変わらないという論文が数多くあります。しかし、その後も小児の不適正な長期使用例で発癌率上昇の可能性の報告もあり、医師がプロトピック®軟膏の特性について理解せず処方することは非常に危険です。



②は「タクロリムスを経口投与したうさぎの実験」で催奇形性や胎児奇形の報告があり、プロトピック®軟膏に対するものではありません。しかし、薬剤師の方でも「長期外用により催奇形性や胎児奇形がおきる」と誤解されている方もまだいらっしゃるようで、「薬局で催奇形性のある薬剤と言われた」と患者さまから教えてもらうこともあります。短時間でいろいろ説明するため、簡潔に伝えるのは難しいのかもしれないですが、殊更に不安を煽るようなことはしないほうが良いのでは…と考えてしまいます。


プロトピック®軟膏は使用方法を熟知したひとが説明すれば、ステロイド長期投与による副作用を軽減できる外用剤なので、処方する側が説明をしっかりしていかなくてはと思います。(プロトピック®軟膏の利点・欠点もあるので、それは別の機会に説明します)





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