2016年10月21日金曜日

Bill Evans - Some Other Time

10月も20日を過ぎ、ようやく秋らしくなってきました。先週は休暇をいただき、疲れ気味だった心も体もリフレッシュしています。今週はたくさんの患者さんに来ていただき感謝しております。年末までこのまま頑張っていきたいと思います。

クリニックのBGMで主にジャズを流しているのですが、「この演奏はよいですね」とか「誰の演奏ですか?」と聞かれるのはピアノ・トリオがほとんどです。その中でもビル・エヴァンスの演奏の人気は非常に高く、抜群の安定感を見せてくれます(そういえば先日、本田竹曠の演奏を気に入って聞いてくれた方がいました)。ビル・エバンス(・トリオ)のすごいところは、音楽が鳴るとその空間がとても上質な落ち着いた世界に導いてくれる音楽であるというところ。ジャズを聴かないひとでも心地よく響くピアノは、エバンスにより完成した「ピアノで奏でるジャズ」の一つの完成形で、エヴァンス派(多くは耽美的なピアノを指す)というジャンルを形成しているくらいです。独特のサウンドは彼の没後35年以上経過しても色褪せず、いまだに未発表音源やライブ音源が次々発売されています。

ビル・エヴァンス・トリオといっても、ピアノのビル・エヴァンス以外のベースやドラムは活動時期により変わっており、詳しい人は「スコット・ラファロ、ポール・モチアンの第1期トリオがよい」とか「エディ・ゴメスとの円熟した演奏も捨てがたい」などと追求していく楽しみもあります。

「Some Other Time」(MPS)というアルバムもそんな幻の音源(さらにスタジオ録音)であり、ドラムがジャック・ディジョネット(キース・ジャレット・トリオで有名)、ベースがエディ・ゴメスという6ヶ月ほどしか活動していないレアなトリオということで話題になったアルバムです。1968年のモントルー・ジャズ・フェスティバル後に収録されたこの音源は、契約レコード会社(Verve)との関係で、日の目を見ることがなかったようです。演奏はジャック・ディジョネット、エディ・ゴメスという若いサイドメンとの演奏ながら、スタジオ録音ということもあり、とても穏やかで落ち着いた演奏です。"I'll Remember April"、"My Funny Valentine"、"In a Sentimental Mood"、"On Green Dorphin Street"などミディアムからスローテンポの名曲から、"Very Early"、"Some Other Time"といったエヴァンスらしい曲までどれも美しく、BGMには最適です(全体的に似た感じなのでアルバムとしては物足りないと思うひともいるでしょう)。






2016年9月29日木曜日

少し疲れたときはポール・ルイスのベートーヴェンを

最近クラシックを聴く機会がほとんどなく、聴いたとしてもピアノ曲が多くなっている今日このごろ。論理的に演奏を比較したり、聴き分けるだけの耳を持ち合わせていないのですが、感覚的に好きなピアノの音色があり、最近はポール・ルイスがお気に入りです。

ポール・ルイスは1972年リバプール生まれ(年齢は私の一つ先輩)。父親は湾岸労働者であり音楽(とりわけクラシック)とは無縁の家庭ながら、8歳の頃には図書館でクラシックのレコードを借りていた彼は、12歳のときに正式なピアノ演奏を習い始めたそうです。いまや中堅ピアニストの中でも傑出した存在である彼の演奏の特徴は、一言で言うと「男性的な響きなのに柔らかく優しい」演奏です。曲をディフォルメしたり、自己(エゴ)をだすために特徴的な演奏をしないのは、恵まれたとはいえない環境で培ったクラシックへの愛情と作品への敬意がそうさせているのでしょうか?

iphoneに入れた彼のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集とシューベルト・ピアノ・ソナタ選集は、ひととき通勤時のお供に聴いていました。正直に言ってベートーヴェンやシューベルトのピアノ・ソナタは得意でないのですが、彼の演奏だと心地よく響くため聴き通すことができます。ひとによっては個性に乏しいと感じるような空気感…それが最大の魅力だとおもいます。

ビエロフラーヴェク&BBC響と録音した、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集もピアノの響きがとても美しく非常に気に入っています(ときどきオケがうるさく感じる部分があるのですが…それを差し引いてもとても素敵な演奏です)。ちょっと疲れて「襟を正さず自然体で聴くベートーヴェン」を欲しているときはかならず聴いています。




2016年8月29日月曜日

ジョン・レイニーのレア盤?

あっという間に8月が終わろうとしています。クリニックでは患者番号が5000を越えました。2年と5ヶ月弱…早かったのか遅かったのかわかりませんが、それだけ多くの患者さんに来ていただけて感謝しています。「肌トラブルがあったらまた受診したい」と思える診療をしていきたいと日々頑張ってまいります。

今年の夏…と括ってしまうには早いのですが、夏らしい期間が少なかったような気がします。8月後半は台風が上陸すると言われてびくびくしていましたが、クリニックへの影響はあまりなくホッとしています。

今日の1枚はジョン・レイニー(Jon Raney) "Waltz for Talia"です。自主制作盤のためスリムケースに入っていおり、メンバーも誰一人わかりませんが、演奏はとても上質の大人なピアノ・トリオです。1曲目の"Waltz for Talia"は娘に捧げた曲で、とてもリリカルで美しい曲で魅了されます。6曲目"Dedicated to Bill"はビル・エヴァンスへ捧げた曲であり、彼の演奏はどことなくエヴァンスを感じさせる繊細さと美しさにあふれています。ブルージーな曲でも荒々しくなりすぎることはなく心地よく響くため、クリニックのBGMとしても最適です。

レア盤ということなのですが、Apple Musicでも手軽にダウンロードできるので、多くの方に聴いてもらいたい1枚です。





2016年6月24日金曜日

子供や妊婦に優しい虫除けスプレーはどれ?

あっという間に6月も終わろうとしています。先月末は鹿児島で講演のため休診をいただいたのですが、その報告もしなくてはと思いつつ月日が流れてしまいました。

今年の5月は関東地方でも日照時間が長く、気温の高い日が続きました。そのためか虫刺されで受診される患者さんが例年よりも多い印象があります。6月の梅雨時期でもその傾向は続いており、「子供や妊婦の方でも安心して使えるおすすめの虫除けスプレーはありますか?」と聞かれることも増えています。そこで、肌に優しく、安全に使用でき、効果も高い虫除けスプレーを紹介していきたいと思います。


ディート(DEET;N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)

一般的によく用いられている忌避剤(虫除け剤)で、ダニや蚊に対する効果が高く、比較的安全なため日本でも虫除けスプレーによく使用されています。しかし、忌避剤としての効果が高い反面、皮膚に直接ふりかけるため接触皮膚炎(かぶれ)や蕁麻疹を引き起こすことが知られています。さらに妊婦に使用することで精神遅滞、感覚運動強調障害、顔面奇形など胎児への影響も報告されています。そのため、使用の際は
子供や妊婦の方への使用は気をつけなくてはいけません。

子供だけでスプレーするのは避け、眼や口などにスプレーがかかるのを避ける必要があります。傷がある肌に使用することは避けたほうが良いと考えます。日本では濃度が12%までのものしか販売していませんが、外国製のものだとそれよりも高い濃度のものがありますので濃度もしっかり確認することが必要です。

カナダでは高濃度(30%以上)のDEET販売は禁止されており、子供には以下の注意をして使用するように勧告されています。

6か月以下:使用禁止
6か月〜2歳:低濃度(10%以下)1日1回、顔・手は使用しない、長期使用不可
2歳〜12歳:低濃度(10%以下)1日3回まで、顔・手は使用しない、長期使用不可

参考:http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/archiv/pesticide/repellent/deet.htm
(一部改変して記載しています)

虫除けスプレーとしては効果が高いので、キャンプ、バーベキューなど虫が多くいる場所で活動するときには使用するのに適していると思います。

 一方、毎日の生活で虫に刺されるのを忌避したい場合、どのような成分のものを使用したら良いのでしょうか?

イカリジン

1986年ドイツのバイエル社が開発した忌避剤であり、DEETに次ぐ効果があると言われています。1998年ベルギーで初めて承認されてから、現在までにアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパをはじめ54カ国以上で承認されているものです。日本でも昨年から今年にかけて発売されています。イカリジンは昆虫の触角の感覚子上に存在する受容体に作用し、人などの吸血源の認知を阻害することで忌避効果を発揮します。蚊成虫、ブユ(ブヨ)、マダニについては10%DEET製剤と同様に100%の忌避率が得られていることが確認されており、6時間程度の効果があります*。アブについても10%DEETと同程度の有効性があります。サシバエとイエダニについては効力試験がされておらず、有効性は明らかではありません。

イカリジンはDEETと異なりほとんどにおいもなく、合成繊維に対する影響もないため服やストッキングの上からも噴霧することが可能です。乳児や幼児に使用するときは大人が手にとったものを皮膚に塗ってあげてください。

いまは「天使のスキンベープ」(フマキラー®)、「虫除けキンチョールDF」(キンチョール®)などありますので、試してみてはいかがでしょうか?

*2015年3月6日 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 化粧品・医薬部外品部会議事録より抜粋

天使のスキンベープ

虫除けキンチョールDF









2016年4月15日金曜日

小児内科特集《子どもの皮膚を診る》ー皮下腫瘤ー 依頼原稿が掲載されました

昨年、東京医学社さんから突然依頼を受け「皮下腫瘤」という題材で執筆した依頼原稿が、小児内科2016年4月特大号(Vol.48 No.4)に掲載されました。皮膚科領域で活躍されている先生方(そうそうたるメンバーです)、開業医の私(みたところ開業は私のみです)が執筆するのは気が引けたのですが、放射線科と皮膚科の専門医というアドバンテージを活かして、小児科医、(小児も診られる)内科医の先生方にわかりやすく伝えられたらと思って書かせていただきました。記載した内容をざっくりと箇条書きにすると、

  • 皮下腫瘤は皮膚腫瘍、細菌・真菌感染症、肉芽腫性疾患など多岐にわたる
  • 画像検査によるリスク(CTによる被爆、MRIでの鎮静による呼吸抑制など)を理解したうえで、必要がある場合のみ検査をおこなう
  • 確定診断が必須ではないものもあるため、心配な時は皮膚科専門医に相談
  • 皮膚科専門医が必要と判断した時は皮膚生検や培養検査などをおこなう
  • 非侵襲的検査としては超音波が優れている

といった感じです。よくわからないしこりがあると心配になる親御さんが多いと思うのですが、結論を急ぐあまり治療につながらない診断だけの侵襲を伴う検査は避けなければいけません。そのためにはどのような疾患があるのか理解することも大事だと思います。

開業してからも、ときどきこうした依頼原稿や教育講演依頼をいただけるのはとても幸せなことだと思います。そのためには、常に自分の知識をブラッシュアップしていかなくてはと肝に銘じています。

小児内科 表紙
皮下腫瘤のページ






2016年3月18日金曜日

おじさんはGLIM SPANKYになにを思うのか?

Apple MusicやAmazon Prime musicなどのストリーミング配信を使うようになってから、ディスクユニオンやタワーレコードのような店舗でアルバムを探す機会がめっきりと減っています。音楽配信されていないようなレア音源や新譜でどうしてもほしいものがある場合はCDを購入することもあるのですが、音にこだわらなければだいたいのものが揃ってしまう(おまけに曲名でいろいろな演奏を瞬時に探すことができる)ため、ジャズやクラシックの同曲異演を簡単に比較できたり、かつて聴いていた(持っていた)アルバムなども再び聴くことができます。本で予習をしてから、お店でゆっくりと音盤を吟味し、ジャケ写やアーティスト・編成、曲名、演奏時間などからどんな演奏かと思いを巡らせて、悩んだすえに購入する…という、ある意味「儀式」のような楽しみはなくなっていますが、音楽の興味の幅は少し広くなった気がします。

GLIM SPANKYという2人組バンドを知ったのは、偶然観たBS放送でみうらじゅんのおすすめとして《焦燥》のPVをみてから。松尾レミの歌声はどこか荒井由実に似ていて、曲調も懐かしさとキャッチーさを感じさせつつ重厚なサウンドだったのが印象的でした。自分が感じてきた「葛藤」や「もがき」(これらはどこにもぶつけることなく過ぎ去ってきましたが…)を体現しているようで、年齢を重ねて「おじさん」になった耳にも心地よく響いていたのを覚えています。

もともとジャパニーズロックというジャンルに詳しくなく、アルバム購入することは殆ど無かったのですが、GLIM SPANKYの場合は、その後たまたまCS放送(スペースシャワーTV?)でPV特集をやっていたのを観て、他の曲も気になったのでダウンロードして聴いています。《焦燥》《大人になったら》《さよなら僕の町》《ロルカの歌》など彼女たちが高校生や大学生の頃の曲はブルースを基調としたアコースティックな作りです。新しいサウンドなのに、あたかも自分の青春時代に感じたやるせなさ・焦燥感・不満などを代弁したような歌声とサウンドは、おじさんの心のなかにもすっと入ってきます。《リアル鬼ごっこ》、《褒めろよ》や《ワイルドサイドを行け》などキャッチーな曲も聴き応えありました。ただ、GLIM SPANKYがカバーする荒井由実の《ひこうき雲》は、ユーミンの歌声の刷り込みがあるため、立派すぎてちょっとだけ違和感を感じました。




2016年2月27日土曜日

アトピー性皮膚炎ガイドライン2016年版からわかること

日本皮膚科学会からアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版が発表になりました。これは日本皮膚科学会のホームページから一般公開ガイドラインとしてダウンロード(https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopicdermatitis_guideline.pdf)できるので、治療について気になる方は一読いただければと思います。

今回の以前のものと比較して目新しいものは「プロアクティブ療法」についての記載があることでしょうか。さらにCQ(エビデンスレベルに基いて奨励するか否かを示した質問と解答)に興味深い内容を記載していますので、それについて考えてみたいと思います。

まずアトピー性皮膚炎について。診察するにあたって明確な診断がされているか、他の疾患を除外しているかが重要です。①瘙痒があり、②特徴的分布(左右対称性)皮疹が、③慢性・反復経過(小児:2ヶ月以上、成人:6ヶ月以上)という条件をしっかりと満たしていない場合はアトピー性皮膚炎にはなりません。診察するときにはまずこの条件を満たさないといけません。治療は①薬物療法、②外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策が大きな柱となり、それを基本にひとりひとりの状態にあわせたオーダーメイド治療を加えていきます。

「プロアクティブ(proactive)療法」(にきびのプロアクティブ®ではありません)はクリニックのホームページのアトピー性皮膚炎のところにも記載をしていますが、皮膚症状が落ち着いた状態を維持するために、保湿剤によるスキンケアと週1〜2回程度のタクロリムス軟膏(プロトピック®)あるいはステロイド外用剤を症状に関係なく継続することで良い状態(寛解状態)を維持する療法です。この療法を行うには「アトピー性皮膚炎の皮膚症状の評価に精通した医師による治療、あるいは…連携した治療が望ましい」とガイドラインに記載されている通り、的確に皮膚症状を判断できる皮膚科専門医(または専門医がいる施設)で定期的な受診・治療・指導が必要になります。皮膚の良い状態を保つことは、皮膚バリア機能を正常に保つことでもありとても重要です。

CQから皮膚科医でも意外とわかっていないことがある点をいくつか挙げてみると、

  • 眼周囲のステロイド外用は白内障リスクは高めない(ただし緑内障リスクを高める)
  • 抗ヒスタミン剤内服は瘙痒軽減の補助療法となりうるが、欧米の報告では治療効果に否定的である
  • 漢方薬(消風散、補中益気湯)の使用については考慮をしても良いが、有用性を示した論文に乏しい
  • 妊娠・授乳中の食事制限(アレルゲン除去食)は児のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではない
  • プロバイオティクスをアトピー性皮膚炎の症状改善に推奨するほどのエビデンスはないが、今後の大規模な臨床研究結果がまたれる
などがあります。これらは現時点における評価であるため、今後大きく変わるかもしれなませんが、知っておくべき事柄です。

ガイドラインは治療のベースになるもので、エビデンスを大きく逸脱した(独りよがりな)治療を是正するものです。かと言ってがちがちに準拠するだけでは治療にならない場合もあり、そのような症状をいかに上手に舵取りしていくか…そこに皮膚科専門医としての力量が求められているのだと思って診療しています。








2016年2月20日土曜日

赤ちゃんはバッハがお好き?

土曜日はあいにくの雨ですが、新宿で東京・東部支部合同学術大会があったため、仕事帰りに少しだけ参加してきました。医局の前教授夫妻や医局の先生方にお会いできてとてもよかったです。

今日の1曲は、バッハの無伴奏チェロ組曲(全曲)。チェロ奏者のレジェンドであるパブロ・カザルスにより発掘・蘇演され、昔のクラシック本の言葉を借りると「チェロの旧約聖書」(この場合、「新約聖書」はベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集)とまで言われる曲となりました。プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット(ブーレ・ガヴォット)、ジーグの6曲から編成される組曲が6曲で構成されており、6番のみいまは使用されない5弦楽器(チェロは4弦)を想定した作りになっています。番号が進むにつれて難易度があがり、5番(スコルダトゥーラという調弦をかえる奏法を使用する)を頂点としています。6番は深遠なアルマンドが美しい別次元の曲になっています。

なぜこの曲を選んだかというと、うちの子供(乳児)がこの曲を聴かせるとすやすやと眠るからなのです。少しむずかったりするときも、目が覚めたときでもこの曲を聴かせると落ち着いて静かになります。チェロの音域は男性の声に近く、チェロ組曲の曲調も落ち着くのかとても心地よいようです。この曲であれば何番でもよいようで、全曲リピートで聴かせています。大人からするとアルマンドが良さそうですが…まったく関係ないようです。

いろいろな演奏があるなかでもいちばんのお気に入りはアンヌ・ガスティネルによる演奏で、カザルスの歴史的名盤やチェロの伝導師エンリコ・マイナルディの深遠な深い演奏(古いサントリー山崎のCM「なにも引かない、なにも足さない」を地でいくようなモルトウイスキーのような漢字です)、中庸の美を地でいくようなポール・トルテュリエでもないようです。解説によるとガスティネルは2児の母であり、音にも母の優しさがこもっているのかな?なんて勝手に思いながら聴いています。







2016年2月11日木曜日

Sweet Georgie Fameはどれがお好き?

ブロッサム・ディアリーの代表曲《Sweet Georgie Fame》は彼女の演奏も含めて大好きな曲ですが、モッズ・ムーブメントを代表するオルガニスト兼歌手であるジョージィ・フェイムに捧げる歌であると知ったのはつい最近のことです。いままで歌詞の内容を気にしなかったのもあるのですが、ジョージィ・フェイムを意識して聴いていなかったためかもしれません。この曲を最初に聴いたのは "Sweet Blossom Dearie"(1967)というアルバムに入っているもので、素敵なメロディと語るようにささやきながら優しい歌声がブロッサム・ディアリーのロリータ・ヴォイス(地声です)とマッチしていたことを覚えています。


このアルバムのLPオリジナル盤はいまでもリビングに飾っているほど好きなアルバムです…が、《Sweet Georgie Fame》の好きな演奏はというと、"Me and Phil" という1993年にメルボルンで録音された彼女のピアノとフィル・スコージーのベースという編成でゆったりと演奏されたものです。


《Sweet Georgie Fame》をピアノ・トリオで聴くとなると、元気いっぱいなテテ・モントリューやしっとりとしたルイス・ヴァン・ダイクのピアノも捨てがたいのですが、幻の女流ピアニスト(デビューから四半世紀消息不明だった…といっても音楽院教師をしていたそうですが)、デビー・ポーリスのデビュー盤 "Trio"(1982)に収録されているものが一番好きです。ベースでメロディを奏でるところから始まり、次第にデビー・ポーリスの優しいピアノの旋律が聴こえてくる、それはあたかも "Me and Phil" でブロッサム・ディアリーが歌うような密やかさがあって…聴いているだけでいつも幸せな気分になります。




2016年2月9日火曜日

サティ《貧者(貧しき者)の夢想》

2016年になってからブログ更新していませんでした。遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。1月は通常診療だけでなく、1月締め切りの依頼原稿が2件(「小児内科」、「爪アトラス」ともに期限内に脱稿しました)、関東信越厚生局からの開業新規指導など盛りだくさんの内容であっという間でした。

遅くなった年始めの1曲はエリック・サティ《貧者の夢想(貧しき者の夢想)》です。エリック・サティ…それはバブル真っ盛りの1980年代に空前のブームを巻き起こした、あのサティです。アンビエント・ミュージック(環境音楽)の提唱者であるブライアン・イーノが影響受けたという《家具の音楽》や象徴主義的な不思議な題名(《犬のためのぶよぶよとした前奏曲》や《胎児の干物》など)で知られていますが、とりわけ有名なのは《ジムノペディ》《グノシェンヌ》など簡素ながら甘美な旋律を持つとても美しい作品集です。

《貧者の夢想》は1900年作でシャンソン《ジュ・トゥ・ヴ》と同じ年です。チッコリーニやティボーテなどメジャーレーベルから出ているピアノ作品全集などには含まれておらず、高橋アキ、メルタネン、パスカル・ロジェ(EXTON)などが演奏している程度。詳細はわからないのですが、Wikipediaなどでは「Robert Cabyによる校訂」とあるので、断片的に残っていたのかもしれません。

《貧者の夢想》は簡潔ながらとても儚く美しい旋律を持った曲で、《ジムノペディ》、《グノシェンヌ》や《ジュ・トゥ・ヴ》とともにもっと聴かれてよい曲と思います。演奏はフィンランドのピアニスト、ヤンネ・メルタネンのものが一番しっとりとして好みです。よりサティのイメージに近い(アンビエント的でドライな)演奏は高橋アキなのかもしれないですが…。「貧者」はサティ本人のあだ名だったようで、彼の夢とはなんだったのでしょうか?「貧しきもの、寂しきものの慰めは夢想である」(三太郎の日記)、大正時代の哲学者阿部次郎も同じ言葉を書き記していますが、その思想は極限までに昇華されたこの曲と同じものだったのでしょうか。興味は尽きません。

サティにとっての《家具の音楽》は数小節の音の反復(ミニマル・ミュージック)であり、《貧者の夢想》のような曲は決してアンビエント・ミュージックではない、といつも思いながら聴いています。