2015年12月14日月曜日

マクドナルド大量閉店から考える、ある医療法人の倒産

「いままで通っていたクリニックがなくなってしまったんです」と言って受診される患者さんがときどきいらっしゃるのですが、みな一様にクリニックがなくなった理由がわからないといいます。新宿区(もっと大きなくくりで東京?)という場所柄なのか、はたまた医療崩壊が始まったのか…閉院あるいは休院した理由がわかるクリニックもありますが、一番の問題は医療と経営のバランスが難しいからでしょう。

とある医療法人は短期間の間に大きな医療クリニックを立て続けに開院したために、負債10億円で倒産したようです。昔は、医院や診療所(敢えてクリニックとは呼ばない)と言うと住宅街にぽつんとあったものです。私の祖父や祖母もそのような形態で開業していました。とくに商店街でもなく職住一体となった建物で、いわゆる「かかりつけのお医者さん(町医者)」でした。時代が進み、駅や商店街の近くの目立つところでクリニックを設立することが当たり前のようになり、医療コンサルタントと称する人たちによる「いわゆる一般的な商業的な経営理念を少しだけ医療向けに置き換えた経営スタイル」を模倣するクリニックや薬局のバックアップのもと医療モールで開業するという形態が中心となっています。

話は変わって、つい最近マクドナルドが経営不振による大規模な店舗閉鎖をおこないました。今回閉店した店舗が赤坂見附、六本木、池袋西口、駿河台などいつも混雑している店舗ばかりで、「なぜ閉店するのか」とツイッターなどSNSで疑問の声が上がっていました。これらの店は私も利用したこともあるのですが、昼時以外でもレジは長い行列でとても混んでいた印象があります。こんな一見流行っているようにみえる店舗が閉店に追い込まれたのは、「いくら高収益であっても人件費や家賃の高騰があるために黒字化が難しい」という切実な理由があったようです。とくに東京は2020年のオリンピックなどのイベントに加えて、海外からの観光客の増加や、TPPによる関税撤廃と円安による海外資本の流入により、家賃や物価もいままで以上にどんどん上昇していくでしょう。

この話と医療がなぜ関係しているのかというと、いま医療経営で成功の条件(私は違うと思っていますが)と思われている経営手法と関わりがあるからです。10億の負債をかかえた医療法人も駅ビルや駅前のモールに診療所を構えており、立地の良さからは高収益が期待されたと思われます。さらに最新の医療機器を備え、非常勤医師を多数雇っていたようです。綺麗な施設と最新の装置…私もそのような施設で仕事ができたらどんなに良いかと思います…が、実際に経営の立場から考えると非常に大変なことに気づきます。どんなに高収益であっても、駅前や新しいビルの家賃は更新のたびに高騰していきますし、非常勤医師をひとり雇うたびに1日あたり何十人もの多くの患者さんを診察しなくては、バイト料に見合った収入が得られません。そのために集患のための広告費はかさみ、診察が混んでくると看護師や事務員さんも増員しなくてはならなる…収益のために出費がかさむジレンマに陥ります。そうなるとせっかく地域医療のためにと開業しても診察のためではなく、経営のための自転車操業になってしまうのです。破産した医療法人は短期間のうちに複数のクリニック経営を展開するなど誤った選択をしてしまったのも問題なのでしょうが…。

それこそマクドナルドが「高収益でも黒字化が難しい」と大量閉店をおこなったように、医療の世界でも立地や集患だけでなく、地に足の着いた経営計画が求められていく時代になっているのでしょう(大変です)。とくに東京など大都市圏は人件費も家賃も高いため、今後もクリニックや医療法人破産のニュースが増えるかもしれません。これからは周囲(誰とは言いません)の甘いささやきや誘惑に惑わされることなく、背伸びをしないクリニック作りが大事なんだと思いました。うちは…街なかに地味にひっそりとやっている小料理屋のようなクリニックを目指しています。